創刊辞 会長 秋山岩吉
神工年を経ることここに10有5歳進展に次ぐ進展、膨張を以てし、今や卒業生の数のみにても大約1000を数え在校生600教職員五十名、もしこれに補習学校生をも加へたらんには、遂に2000名を突破するの盛況を呈しているのである。
既に此の如き一大勢力の出現を見たる上は、必ずやこれにふさわしき完備せる報道機関の必要にして欠くべからざるは敢て多言を要しない。宣(むべ)なる哉頃来(けいらいお)これに対する与論は次第に高まり、遂に第12回の総会に於て「神工時報」創刊の提案可決を見たのである。
総ての社会団体は之が有機的に結合したるときに於てのみその威力を発揮する。而して神工同人をしてその有機的結合をより強固にすべき最良の手段はより完備せる報道機関に待たねばならないことを余は信じて疑はぬ。従来の年刊の雑誌を月刊にしたる本紙の意義は実にここに存するのである。
萬物は流転する。流転は人生の姿であり変化は宇宙の意志である。本紙の内容外観もこの理法に従って、刻々に変化し流転して行くに違いない。希(ねが)はくは神工同人諸君の熱意なる御尽力と御援護とに依って本紙が益々改良され充実され一歩創造的進化への過程を進みゆかんとを祈る次第である。
新人生歓迎会
次の文は図5馬場久彌君の歓迎会記録中より抜粋採録したものである。編集子
4月24日午後1時から新入生の歓迎会を開く、県下首位の難関を見事に通過したる誇りと喜びに輝く120名の英才はこの日主賓として講堂に招じられた。
機5馬場君開会の挨拶をなし、秋山学校長の歓迎の弁あり、終わって神工会各部の紹介に移る。学芸部として電5齋木君、剣道部として電5黒瀬君、柔道部として建5西村君、徒歩部としで図5堀内君、遊技部としで建5杉崎君、庭球部として電5本多君各々更(かわ)る更る登壇各部の内容目的等を逐一紹介するところあり。宮崎教授は謡曲について約40分に渉る卓見を述べられた。
3分間演説に移る。建4八木君、建2木所君登壇各々熱弁を振い終わって余興に入る。機5福山君面白い落語に講堂の顎(あご)を解かせ家4寺西君、薩摩琵琶本能寺を見事に謡い了(おへ)て破る許(ばか)りの喝釆を博した。その他謡曲ハーモニカ合奏等何れも黒人跣足の堪能ぶりを示した。
講談師三浦楽堂、モーングを着込んで堂々歩を檀上に運ぶ。咳一咳、満堂固唾を呑んで静粛となる。やがて口を衝いて出ずる物語は、貧しけれども心美しい一人の職人と、かつては世にときめいた武士の今は尾羽打枯らした一浪人との間に起った、血あり涙ある美しい話である。700の職員生徒あるいは笑いあるいは泣き、心行く迄耳洗の快を味ったのである。
図5上田君閉会を宣す。
原稿募集
卒業生及び在校生その他一般人士の御投稿を歓迎いたします。左に投稿規定を掲げますから御熟覧の上振って抑投稿あらんことを祈ります。
一内容 (イ)和歌俳句新体詩等(ロ)小品観想紀行等(ハ)論説評論、研究発表等
一締切 毎月18日、18日以後着は翌月号
一用紙 字15詰行数制限なし(申込次第送呈)
一宛名 (イ)在校生、編輯(へんしゅう)部員に提出(ロ)卒業生及びその他の人士、神奈川県立
工業学校内 佐藤一馬宛
なお、御尊稿掲載の順序は編者に一任ありたし。
編集同人
本紙編輯部同人として、左記17名の方々を同窓会長の名に依りて委嘱いたしました。全部在校生のみを以て組織いたしましたのは種々な便益を考へためでありまして、勿論、辺くに御住いの先輩卒業生諾兄等が、自ら進んで編輯事務におたずさわり下さることは双手を挙げて歓迎いたします。
黒瀬、浜中、西村、古川、平野、田中、杉崎、馬場、福山、斎木、渡辺、上田、片瀬、青木、八木、小野寺、神谷
以上17名の学級盟監の先生方には新ためて御了解御承諾のほど御願いいたします。
6月中学校行事予定
◇5月17日(日)挙行の予定であった運動会は雨天のため、二23日(土)に変更されました。尚同日が雨天ならば25日以後になる筈です。従而運動会に関する記ことは翌月号に廻りました。
◇追浜見学 6月9日(火)全校
◇マラソン大会 日未定(土の予定)
◇剣道大会 本校講堂、日未定
◇競技大会 日未定(日の予定)本校々庭
第12回同窓会総会 KS生
「今年はとても素敵なものが出来上がりそうだ。」そんな予感に何をするにも張合いがよく準備は思いの外速やかに着々として進捗した。
今日、大正14年5月3日。降るでもなし照るでもなし、どうやら「曇後雨」の天気予報が適中しそうな空模様である。窓より入りくる5月の風は、フレッシュな青葉の薫と共にうすら冷たい水蒸気を伴って5月といふ名にふさわしからん:肌寒さを感じさせる。
午前10時、既に待ち兼ねられた会員の諸兄は元気な顔をにこにこさせて受付に表われた。以後来校さるものひきもきらず午後2時迄に会員約120名、職員20数名を数えることができた。
緩く輪を書いた煙草の煙に包まれつつ古い卒業生も新たらしい卒業生も職員も皆一つに固りて愉快な談笑をしている有様は側で見る目も快い。外には青葉を濡らす雨の音がしとくと降り注いでいた。
午後3時の振鈴を合図に、講空に於て、第12回同窓会総会を開催する。司会者坂間俊造君の招きに応じて萩原林造君登壇開会を宣し。次いで秋山会長登壇する。にこやかな笑顔に巨眼を細めつつ渡り場内を見渡す。水を打った如くしんとした空気を透して、120余の瞳は一斉に慈父の顔をなつかしげに仰ぎみる。
「たまさかの日曜日で定めし主な御計画がありましたにもかかわらず、かくも御多数の出席をみたことは、私として実にこの上もなくうれしいことであります。どうか今日は一日中昔に帰って心置きなく愉快にお過ごしくださるよう切に希望いたします。
同窓会会員の数は本年度の卒業生108名を加えて915名という多数であります。これら多数の卒業生諸君は、各自その修学学芸技能を基として、ある者は会社、工場にあるものは独立して工場、店舗を開き、ある者は更に上級の学校や研究所に於て勉強を続けております。当年紅顔の美少年が今や堂々美髯の偉丈夫となられてかくも活動されておるのを見るとき天下また此の如き快心事のなきを思います。
今や吾が工業教育会の状況を見るに、この種学校の増設に伴って、これら学校の卒業生の数は非常な勢いで増加しつつあります。この間にあって斯界に雄飛せんとするには、個人としても非常なる努力を成すべきは勿箇のことよく団体としての統一、連絡をはかりその間萬一にも意志の疎通等のないようにしたいものであります。希はくは先輩諧君はよく後輩の諸君を指導啓発して益々:斯界に雄飛せられんことを切に希望いたします。
頃日来幹事諸君の趣向による種々なもよおしや御馳走が、満腔の歓迎を湛へて諸君を待っております。どうぞゆるりと御遊び下さるよう重ねて希望いたします」
高橋君登壇「神工時報」の報告をなし議事に入る。この時会長議長席に就き、これより議事に入る旨を宣す。
高橋君登壇「神工時報」創刊に関する提案理由の設明あり。議長質疑の有無を会に諮るに質問なく、萩原林蔵君及船津喜之蔵君の賛成演説ありて、採決の上一人の反対者もなく通過。
議長議事の終れる旨を宣し議長席を退く。
大高芳朗君、坂間君の招きに応じて登壇。同窓生に関する希望に対して大要次の如き演説がある。
「私共神工同人でかつマツダランプに勤務しておるもの同志がマツダ神工会なるものを組織しています。毎月一定の会費を拠出しこれによって、ある時は食を共にしある時は未見の地を探り、吉凶禍福之を分って恰も一家兄弟の如くに親密である。これが工場作業の能率を増進することは非常なものであって、かつ各自非常な心強さを感じるのであります。どうか、他の社に勤められておる諸君も、こうした会をつくられて折角神工同人のために御尽力あらんことを切にお願いいたします。」
次に小川準君会員感想として満州在住の所感を述べ、柳下國雄君より校友マークについての動機の提出あり最後に、吹野寛司君流暢なる語句にて閉会を宣し。余興に移る。
例に依りて三浦楽堂師モーニング姿で現われる。義士外伝「小田小衛門」の伝記を語ること40分。品に高ぶらず俗に落ちず、流石は三浦楽堂だとは一般の偽らぬ批評であった。
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此所神工同窓会の模擬店である。すしやおでんやだんごや、コーヒー店、汁粉や甘酒や、果物がのきを連ねて先生方が、おでんをほおばる。つんとすましたハイカラ紳士がだんごの横食をして怪しまない。ビクターの蓄音機は快いメロディーを送ってくる。何れの店も身動きならぬ大繁盛。
「福引! 福引!」
福引のベルが鳴る。開けて口借しい玉手箱。植木にでも水をやれといふんだなと如露を当て悦に入る老先生、早く世帯を持ての謎かと、火箸をなでて悦に入る独り者、もっと勉強しろよの強意見かとパイロットペンシルを抱へて徴笑む殊勝な古い卒業生。賑やかなこと賑やかなこと。夜の幕は次第に四隅を包んで落ちついた電燈の光が輝か出した。まだ疲れた色さえも見せない会員のめいめいはラジオ会場にして同時に活動写真会場たる講堂へと流れ込む。
活弁は束京活動写真協会より派遣された本ものであり、フィルムは有名なオーパーザヒルの姉妹編「愛は永久に」を始め有益にしで趣味深々たるもののみである。間々にはラジオの音楽に耳を楽しませる充分なる歌をつくして散会したのは10時を少し過ぎていた。
附記
会長及び大高君の御演説は勿々の節とて草稿を戴かずかつ不完仝なる小生の記録書の御訂正をもお願いいたしませんでした。従而本文の記者にあることをお断りしておくと共に、会長及び大高君に対してその無礼をお詫びする次第です。
御礼
表紙の図案は特に永田先生の抑好意によりで書いて戴いたものです。ここに新ためて厚く御礼申し上げます。
お願い
◇御住所御就職先等の御移動は成る可く速やかに御通知ください。
◇結婚出産及びその他の御慶ことは是非本紙を通じて全会員諸君に喜びの御裾分が願いたいものです。
◇萬一御不幸がございました節も前と同様直ちに御知らせを願います。
◇本紙の読者である600の在校生は卒業先輩諸兄の奉職されておる会社工場等の情況や種々経験談等をしきりに聞きたがっています。諸兄には夫々皆随分と御多忙なこととは拝察いたしますが、多少の閑でもございましたら、そうした話を本紙通じて、聞かせてやって戴きとうございます。
◇一般会員は勿諭のこと共他の商人等でいろいろな御広告をなさる向は、極めて低廉な料金で御用命に応じますから続々と賑々しく御申込みを願います。特に卒業生の広告料は低廉にいたします。念のため申し添へますが本紙の読者は約1600名です。
◇年頭の賀詞暑中寒中見舞の挨拶出発帰朝見送りの御礼等には是非共本紙を御利用ください。
論説 社会奉仕に対する覚悟 機4 片瀬
社会奉仕ということは総べての人がよく口にする言葉であるが。此社会奉仕ということを為すに依って社会は発達もし悪化もされるのである。然れば奉仕を為す事に対して吾々は非常な覚悟を要すると思う。
世間には非常に沢山社会に対して奉仕を為す人々がある。最近よく行われていた救護班等によって証明される。併し此等は大々的な奉仕であるが吾々は思わぬ一寸した奉仕的なことをなすのですが余り気に止めません。
これです。これが本当の奉仕であると思う。然るに、その心が少し大きくなると社会の人々から賞表される是を度々繰返した時にはその心は初めの心と違って一種の社会に対して職業の様な気持になる。その様になってくると賞表の為、御礼金ために奉仕を為するのだと考える。そうなると人々は次第に表面的になって来て奉仕を為せばそれに相当した表彰即ち一種の報酬を望む人も少なくない。
それから考えると報酬を受け取る為に奉仕を為すことは一種の商売になる。然るにある先生は社会に対して奉仕を為すことは職業ではない商売ではない報酬を得る為ではない、それは義務の為めである。実際そうです。義務の為です。吾々は社会に対して非常な恩恵を受けている事から考えると、吾々は社会に対して奉仕すべき義務があると云われる。然るに義務と云われると何んだか束縛された様な気がする。それ様な不満な気で奉仕を為したとてそれは前と少しも変わらなくなる。
悪心を持って義務だからといって奉仕を為すのも義務だ。前者の如く行ったならば受けるも人も受けられる人も互いに愉快になれない。従って共に不利不満となってくじけでしまう。その様な奉仕なら為さない方がましいだ。義務的に奉仕をなすことは一般的には余り面白くない。
吾々は義務の為めに奉仕をするのでなく自分が愉快になろうという本能を満足させる為めに奉仕を行って見たいと思う。然し共言葉の中には前の如き意味の奉仕とか義務とかと云うことは少しも含まれていない。ある人は報酬なくして何で社会奉仕が出来るかというが、ある書物の句に「与えるは得るよりも幸なり」とあるが、吾々奉仕をなす時にも愉快に喜んで愛に満ちた奉仕をしなければ少しも幸にはなれません。私は愉快で愛に満ちた奉仕を為すことを信じてやまないのです。
ある人? 機4 片瀬
ある人と題しました。併誰を指していうのでしょうか。それは誰かをいうのだ、定っていない、けれど人を指すことは明である、実に危険な語である。
今、吾が学友があることをして非常に総ての人に尊ばれるようになった、それ故市の社会課から相当に表彰されたということがある新聞紙上に賞讃して記せられてあったとしたならば、それを読んだ諸君先ず第一にそれが学友の誰であるかということを考える。誰だろう自分かしら、または自分と何時も話している学友ではないかなどと疑ってくる。
然るに為された行に依って友の断定を付けるある人と示された時、誰でもよいことを為した人ならば、それが自分であれば、という様な考えを持つのが常である。その自分の今迄の生活を顧みて自分は人に恥ずることがないのだ。自分の手本となるべき行いをしている、と自分自心確実な快心を持っているならば、それを読んだ時に、人知れず愉快さを感じるのである。この様な人には先生が来ようと、大臣、知事、巡査、判事の前に出ようと向う所敵がないから赤くならず堂々と目分の意見発表が出来る。この様な友を持ちたいものです。
今ある人がある家に行きある物をひそかに取る様なことをして、社会また学校中の注意人物となったことを読んだ、ある恐怖心を以て是を見る人は今迄の生活に色々な黒い面と向かって話せないような行為があったにちがいない。その様な時にも吾々はかりそめにも恐怖心を起こさないで、それ人に同情を持つような人になりたいものです。
ある日のこと、本校のある生徒がある朝電車の鉄橋際を通りがかった際、一台電車が走って来て鉄橋上にかかった時、人を驚かせるような悲鳴と共に電車は速力を弱めたが、橋上を滑る如く走り去った。その後少して犬の悲鳴が非常に強く人の感情を思わせるように朝の市に響いた。
学生は学校に行くのがおそかったのだろう。急ぎ足で学校に向う途中でこの一事件にあったのだ。学生はすぐ川岸に行き犬をさがした。哀れな犬が助けを呼ぶのでしょう、実に悲惨な形状を示して、悲鳴をあげているではありませんか。学生は初めは躊躇したが、決心したらしくその場に鞄を棄て川に入り犬の近くに行くと、犬は喜ばしそうに一吠高く吠えた。学生も自分の弟でも助けるようにして、犬をだきあげ岸に上げると、それはそれは驚いたことには、犬の後足二本完全に切断されている。
学生は非常な情と愛とをもっていたわったということがあった。これは一種の実話にすぎないが、この様な事項がある社会新聞に大きく記されたとする。諸君この記事を読んで如何に感じますか。先ず吾校として一つの誇りと思う。ある学生として、自分等の生活の過去を思う。そしてある人は全然問題外な感じを起すでしょう。併し誰人でも自分が善なることで賞讃されることは、たとえ自分の氏名が記せられなくとも愉快に感じるのです。
育春を徒費する 友に捧ぐ 正司生
貴いとおとい青春を徒費する友よ。君等は青春の貴さを知らないのか。そしてその青春は刻一刻と過ぎて行くのだ。君等よ、僕の呈するこの一篇を聞いて下さい。その為に僕は責重な時間を費やしているということも知って下さい。
「人生は黎明である」
銀の砂を振りまいたような空想も黎明来たらば一つ減り二つ減りして四辺は次第に明るくただ五位鷺の声のみ。
「暗より明へ」そうだ。人間もこれと同じである。而して明な重大なれば大なる程その人は人格者であるか又博識家であるのだ。過去5千年にこの世の中で生を受けた人は何人だ、どれだけ多いか、それは我々の考へ得べき範囲で無い。その無数に多い人達の中で完全な「明」なる人は幾人あるであらうか。無いといっても過言ではあるまい。キリストと釈迦か、然し彼らとしても人間である。果たして明か。よしんば四代聖人なる人をもって明なりとしても僅か4人ではないか。
「黎明」それが入生の総てである。その為した事業の大小に関せず一言の下にいい尽かされてしまうのだ。
「生命と力とを自己の昇天に捧げよ」僕も人間だ。君等とでも人間だ。燃ゆるが如き向上心もあり自尊心もある。これら総ての集合である吾人の「力」とそしてその生命とを自己の昇天に尽さねばならぬ。力は無限に大きい。されど生命は有限である。有限の生命に無限の力は表わし尽くせない。只少しなりとも多い、少しなりとも無限に近くその力を表わさねばならぬ。そして最も多く表はし得た人が偉入である。後世に名を残す人である。
君等の血は燃えている。君等の力は今や最も頂上に達しようとしている。そして君等の表現せんことを待っている。何故に躊曙するのか。君の未来を考えてご覧なさい。成功の道を考えてご覧なさい。野心を起されよ。更にその野心即大望を表現するように勉めなさい。その時に君の胸の内の力は実現しそして活躍するのではないのか。
「君に対する期待に報いねばならぬ」
君等の周囲を見廻して見給へ。君の両親は君の立身出世を唯一の楽しみとして生れ落ちるとより育てあげ、そしてなお学校へまで通わせてくれている。また君の教師は君の力を実現せしめるためにその種子を植え付けているではないか。更に多く見渡して見給へ。君の衣を貢ぐ者、食を与える者、皆君の偉大なカの実現を期してそれ等を供している。社会では君に期待をかけて居るのだ。この期待、この大きな期待に対して君は裏切ってはならない。
「されば肯春を徒費する勿れ」
青春の貴いことは、今更いう必要も無い。学も修めねばならい。徳も磨かねばならぬ。また礼も練らねばならない。こうした急がしい青春を何故あって徒に過そうというのだ。少しも早く自覚せられよ。そして自覚したその瞬間から直ちに勉め励めよ。自覚は成功に対する最大の加速度である。さらば一刻も早く自覚せられよ。青春は刻々と過ぎて行くのだ。現在に満足してはならない。己れの達すべき目的に対してまっしぐらに前進せよ。(この事については後に機会があったら述べるとしよう)
「成功の三大要素」
最後に致って成功の三大要素を記してみよう。これも僕の考えで他から選んだのではない。 ・
一、常識をたくわえ習得に勉めよ
二、一度立てた目的を変更する勿れ 。
三、空想に走らず実現に務めよ
一及び二は何人も分るであろう。
三は次の如き意味で書いたのである。一度目的をたてたならば直ちにその時から、実現につとめねばならない。「学校を卒へてから」とか、「その内に」などいって怠るのは失敗の第一の原因である。
大正十4年度 第一回商議員会
(4月18日午後6時より母校に於て開催)
出席者別表の如く27名。簡単なる晩餐を終えて会長間会を宜し議事に入る。
一、幹事互選に関する件
鈴木勘司君の動議により会長の指名を乞う事に決し指名に依り別表の諸君就任す。
一、約会に関する仲
イ、時期 5月3日(第一日曜日)午後1時より
ロ、会場 母校(当日晴天ならば校庭、雨天の節は生徒控所)
ハ、会費 金1円15銭
慎重審議の結巣上記に決しプログラムに入る。
イ、午後1時より3時迄 懇談会(各控店に於て)
ロ、2時より総会(講堂)
ハ、4時より余興
一、講談 三浦楽堂師に交渉すること
一、模疑店の計画
飯島君 同窓会員となりてより未だかって一度も会則なるものを見たる事なし。時折機関雑誌に発表願いたいと希望し。
荻原君 同窓会の一事業として時々各自の研究発表あるいは名士の講談会を開催しては如何と諮りその理由をるる述べらる。一同その主旨に於て賛成なるも実行の困難なる事多々ありとて不賛成のものあり議纏まらず。
会 長 研究会も宜しからんが事実これが実行上種々の困難あるは諸君と同意見とすとて同窓会が各種専門の異れるものの団体なるに依りて研究資料も広範に亘りこれを小とすれば一部特殊の人達のみの会合となり同窓会として実行難に陥りその効果も比較的勘かるべし等種々実行上の不可能なる点を指摘し、若し各科卒業者が自己の専門外の研究をなさんとするならば母校附設の補修学校の夏期講習会を利用しては如何と促し。
萩原君 然らばその時期講習内容等決定次第雑誌に発表していただきたいと希望す。
益田君その他 会誌を年2回発行しては如何と提案。
高橋君 結構なる事なども一回発行に於てすら内容貧弱、在校生の作文帳などなど兎角の評あり。この点編者としても充分自責しいるも寄稿少なきを如何せん。刻下の急務としては回数を増すよりも内容の充実を図る事に一層の努力を致し諸君の奮闘を切に希望したしと答えなお種々希望する所あり一同了解して打ち切る。
時に正に午後10時会長閉会を宣し一同解散
商議員会出席者
秋山会長、仙波副会長 、中山上島両教諭、萩原 林蔵 、磯田榮一郎、村松 幾三 、飯島 利貞、鈴木 勘司
川村八太郎、小川 実 、鈴木 由郎、堀 文雄 、橋木猿三郎、田沼 起八郎 、青木市太郎、中村 静雄
深瀬覚五郎、船津喜三郎 、谷田 三郎、二見 武次 、内山 太郎、高橋 暢 、大江 良吉、佐藤 一馬
板間 俊造、石橋 栄治
以上27名
大正14年度 第1回幹事会
(4月25日午後6時より母校に於て開催)
出席者、秋山会長外9名、増田、青木両幹事欠席、一同にて総会案内状表書約800余を手分けして認めおわりたる後議事に入り主として総会に関する細分の打ち合せ即ち受付係、接待係、総会諸係、余興係等それぞれ分担を決定。なお余興のプログラムに活動写真映写の案会長より提示せられ一同異議なく可決す。
映写器械は今回母校に於て教育資料の為め購入せる最新自働式のものにして、当日それ初公開という事なり。映画は中央活動写真協会特選の優秀なるもの二三巻説明者付にて交渉纏まれるよし。当日は一層の盛況を添える事ならん。
総会に関する諸準備分担決定の後高橋君は誰誌神工を月刊の小新聞としては如何と提案し満場の賛成を得て編集に当たっては新鋭の佐藤一馬君の労を願う事に決し総会に於て決議案として提出することとする。閉会10時30分。
編集余禄
O陣痛のかなり劇しかっただけ、それだけどうやら無事にこうして生れてきた愛児の姿を見いと、憎い程可愛いのが人情である。そしてそれがそのまま編集子の心である。
◇「愛するが故の叱責」「愛するが故の御忠告」「愛するが故のご鞭撻」それらは愛児神工時報にとっても皆等しくよりよき成長への慈雨である。幸いに諸兄の御高庇を御祈りする次第である。
◇過ぎし月日を顧りみるのとき、淡い憧憬と限りない数々の追憶とは頑なにひがんだ人の心にもナイーブな温かい人間味を持ち来す。そのところに人間性の弱さと美しさとがあるのである。それなしも感じない人間は、人間の形のみ備えたマシンである。
◇全校生徒に正課として、勤めて高尚な音楽を課するのも、生徒が自由に使用しうるオルガンを備えておくのも、時々文芸会や学芸会を催すのも、人間らしい人間を完成させたいという秋山校長の自愛心からである。
◇中村というよりも、頭のはげた靴屋のお爺さんという方が分り易いであろう。相変わらず元気なもので、白髪童顔今もなお「お爺さん、お爺さん」と生徒たちに馴れ睦まれている。遠足や修学旅行のときは、定って信玄袋を大切そうに持って、にこにことついてくる。
◇かつて諸兄の愛された靴屋の爺さんは、こうして来る日も行く日も晩酌に一合に陶然としつつ平和な日を送っている。求めざるものの幸福は吾等のかく近くにあったのだ。
(絹斡を終えるの日)
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