神工時報(復刻版)

2011年創立100周年記念

第2号 大正14年7月1日

   

恩師の書簡 KS生

はしがき

強情で片意地で負けず嫌いで、その上ややもすれば己が身を巻き込んでしまいやすい私が、幸い大過なく今日まで人生の海を航し、今もなお限りない向上の思念に燃えて理想の悲願を夢見ることができるのも。実に心から案じてくださる先輩恩師の賜物であろうことを思います。

ここにいうE氏とは、私の先輩でありかつ恩師である、某名士であります。文学士、法学士がその学位で、弁護士がその職業であります。最近同氏より寄せられた書簡は私一人が読むにはあまりに勿体ない気がします。でここに氏のご迷惑にならない範囲において、その大意を諸兄にお伝えします。もし諸兄の中のたった一人でもが本書によって何らかインスピィレートされるところがあるならば、私の満足はこれにしぎません。

S君

その後はご無沙汰に過ぎていましたが貴君は学窓をおえてのち今日までに色々の變化─精神上─生活経験上─があることと察します。が現今すべての生活を通じてその中心として意識せられている一点はどんなものですか? 糊口の生活に追われて学成り難しということはないでしょう。理想を追う青年の血に枯れて俗世界に沈んだということもないでしょうね。老人は過去に活き、中年者は現在に活き、而して青年は未来に生きているのです。私どもは常に青年でありたい。否青年であらねばなりません。然らば青年の本領は如何? 曰く鈍! 曰く至誠! 曰く熱! 故に私どもはその日常生活が透明であらねばならない、事にあたって虚構があってはならない。濁りなき緑の色を溢れて、何処より見るも極めて感じよきものであって欲しいのです。而して自分の道に忠実にまた当たって熱あるものでなければならないと固く信じています。

然し実世間に処してみると以上のような青年の本領では却而(かえって)世渡りができない気がするでしょう。貴君も学校卒業後はここに年ありだからその間の生活経験から何かを考え、もしまた体験も得られたでしょう。
僕は一空想家と呼ばれても満足しています。何故ならば私は私の空想あるが故に天上には偉大な力を仰ぎ、自分に敬虔な念慮を抱くことができ、俗世を○○し、その間に立って自分の仕事に任務を感じて生命ある否生命ありとする生活を辿れるからです。僕にこの空想がないとしたら人間という一動物の境涯から一歩も出ことができないでしょう。僕はどんな難局に処してもこの空想を捨てなかったのです。今後も常に自分の空想を生命として、凡ての生活の中心として生きてゆくのです。これあるが故に僕は自分を貴く尊厳あるものに取り扱っています。

弁護士の業はかなり骨の折れる仕事ですが、また私には興味の多いものです。然し教育事業から見たら、私にとっては興味の少ないものに思われます。私の教育の興味は教団のみを中心とはせぬもので、むしろ教育外に青年の相談相手や精神上の指導──否空想の注射の方が興味の中心でありまた世を益することが、今の仕事より大なるを思います。

色々の事件にも当たって日本人の精神生活のあまりに空虚なるにあきれます。今日帝大あたりの卒業生でありながら犯罪意識に欠けたかなり念入りの馬鹿者をみると実に寒心に堪えません。


貴君の将来に対するご予定は何ですか? 例の案件についてその後一向にご無沙汰がありませんが案じております。何れに向かわれるにしても大いに将来の予定を立てて、今日に努力せられんことを念じています。

只今午前1時半、この手紙を寝床の中で認めました。実はフト貴君のことが思い浮かばれてしみじみと話してあげたい気になったからです。否貴君の心の姿が何となく物寂しいように思い浮かばれたからです。


S君

境遇を征服し給え! 境遇に押し流され給うな! 徒に境遇に順応して生気を失っては不可です。精進! 努力! 勇奮! を祈る。

校内の記事 春季大運動会の記

朝嫩の空に轟々と響く砲声は早くも神工春季大運動会の開かれたしらせである。
わが運動会の特色あることは別紙のプログラムによっても明らかであるが、さらに本年度においては、同窓会主催の下に、校内製品および卒業生関係の会社工場における製品の廉価販売をなし、当日の生協をいやが上にも盛んならしめたと共に、益々わが運動会をして特色あらしめることを祝賀したい。

当日はあたかも土曜日だったので、午後からの人手は一層おびただしく、さしもの広い運動場も観衆をもってぎっしりと埋められた。
入口に建てられた、大アーチやスフィンクス、野趣満々、奇想天外のポスター、最新流行のラジオをかたどるあかぬけた装飾等、各科各様なれども数千の観衆をして三款せしめたのであった。
競技はさの故障なく進歩し、学生生活の中、最も華やかにして、楽しみ多き運動会は午後5時30分を以て無事終了した。


第11回春季運動会順序
1 整列
2 君が代
3 開会の辞
4 競技
5 整列
6 賞碑授与
7 閉会の辞
8 万歳三唱

競技種目
100メートル競争、200メートル競走、400メートル競争、800メートル競走、1500メートル競走
長距離競走、10分間競走、跳躍、投擲、100メートル優勝者競走、リレーレース、200メートル優勝者競走
尋常小学校選手競争、高等小学校選手競争、補習学校生徒競走、来賓競走、職員競走、各学年選手競争
猫袋競走、櫓架競走、百足競走、計算競走、抽籤競走、ABO揃え、兎跳び競走、障害物競走、3人4脚
スプーン、長下駄競走、棒立競走、協同一致、下駄作り、棒倒し、野仕合、歩騎競走、全校体操


神奈川県立工業学校 同窓会 会則

第1条 本会は神奈川県立工業学校同窓会と称し、同事務所を神奈川県立工業学校内に置く

第2条 同会は会員相互の友誼を温め便宜を図りこの業の発展に資するを以て目的とする

第3条 本会は左記の会員を以て組織する
 1 正会員  神奈川県立工業学校卒業生
 2 名誉会員 神奈川県立工業学校職員および名望学識ある者にして本会の推進に係わる者

第4条 本会の目的を達するため毎年春1回総会を開き、並びに会誌を発行する。ただし、臨時総会を開くことあるべし

第5条 本会に左の役員を置く
 1 会 長 1名 神奈川県立工業学校長を推戴する
 2 副会長 1名 神奈川県立を工業学校主席教諭を推戴する
 3 商議員若干名 名誉会員および正会員より会長これを依頼する
 4 幹 事若干名 正会員たる商議員中より互選する
   必要の場合には会長の指名により地方幹事を設けることあるべし。ただし役員の任期は1年とする

第6条 役員の分掌の宜むること左の如し
 1 会長は会務を総理する
 2 副会長は会長を補佐し会長不在のときその代理をなす
 3 商議員は会員を代表して会務を商議する
 4 幹事は庶務・会計・編集その他本会一切の会務を処理する
 5 地方幹事は地方会員を代表し必要の会務を処理し諸般の報告を掌る

第7条 正会員は会費として1か年金1円宛納入するものとする
 1 本会生館員にして満10か月間滞納なく会費を納入するものに対してはその年より終身会費を徴収せず。ただし一時金に金8円を納入するものは終身会費を徴収せず。
 2 正会員にして既に若干年会費を納入せしるものは金5円より納入済金額を引き、それに若干金を加算して次の内訳表によりて定めたる残額を超過するときこの規定によることを得ず

 一、金50銭を納入せるもの   4円60銭
 一、金1円を納入せるもの    4円20銭
 一、金1円50銭を納入せるもの 3円80銭
 一、金2円を納入せるもの    3円40銭
 一、金2円50銭を納入せるもの 3円
 一、金3円を納入せるもの    2円60銭

第8条 会費未納1か年以上におよぶものは会誌の発送を停止する

第9条 本会員にして住所氏名就職場所等に異動を生じたるときは直ちにその旨を本会に届け出づるべし

第10条 会員中その体面を汚したるものあるときは本会より除名することあるべし


編集余禄

◇「三度炊く飯さえかたしやら会三度炊く飯さえかたし軟らかし」誠思うようにはならぬのが浮世。理想と現実とは兎角に離れがちなのが常である。

◇第一号は理想の10分の1も実現することが出来なかった。一は全く自分の無力と多忙が原因し、一はわが部の経済が貧弱なためでもある。いずれにしても諸兄のご援助とご同情により暫次充実完成されたものをつくりあげたい。

◇浮世離れた「象牙の塔」にも、不景気な波は、不気味な呪いのうめきを伝えてくる。しかしそうした中にたってわが神工の諸兄等がますます強い結合の下に相寄り相助けつつ堅実なる地歩を開拓しつつあるのを見るのとき、いいしてぬ愉快さを禁じ得ない。

◇しかも運命の神は兎角に悪戯好きである。もしも思わぬ浮世の波にさらわれて失業し少し露骨すぎるけれども─されるようなことがあったら是非申し出ていただきたい。会長は勿論のこと吾々神工同人一同及ばずながら出来る限りの尽力はいたすつもりである。

◇本紙をして作文の練習場にはしたくない。これは同人諸君の等しく抱かれる願望であると思う。ここにおいて割愛の二字を使用せねばならなくなる。

◇必ずしもテーマの完全を望みはしない。必ずしもスタイルの優秀を求めはしない。ただしかしこの新聞は1600人に近い人々が読んでくださるのであるということを確と頭の中に入れておいていただきたい。殊に比較的知識経験の浅い─(もちろんそうでない方も多々あるが)―在校生各位の三思されんことを切望する次第である。

この稿を終わるにあたりご多忙中にもかかわらず有益にして興味多きご尊稿をお送りくだされた諸兄に対し厚く御礼申し上げます。
(編集を終える日)


本紙定価

一 部    金8銭
半年分    金45銭
1 年    金90銭


本紙広告料

1 頁     金10円
半 頁     金6円
四半頁    金3円
八半頁    金1円80銭
(神工同人 1割5分引き)
3か月以上定期 1割引き
(神工同人 2割引き)
6か月以上 2割引き
(神工同人 3割引き)


参考(当時の物価)

米10キロ 3円11銭、教員初任給 45円、山手線初乗り運賃 5銭、そば 7銭